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承のくくるをめぐる

取材

神との交信が源流の即興ライブ 各地で輪が生まれる「拝殿踊り」

ライター︰秋屋美桜

切子燈籠の下で大勢が輪になって踊る。

郡上の盆踊りの生演奏の臨場感と、下駄や手拍子、かえし唄など、それぞれが音を出すことで得られる気持ちの良い一体感。それらを一度体験すると、やみつきになる人は多い。そんな郡上に伝わる盆踊りの源流となっているのが、白鳥の町の数社の古社に伝わる「拝殿踊り」。今回は、古来からの白山信仰が今も根付く拝殿踊りの源流から紐解いていきます。

拝殿おどりの会場は神社の拝殿。先祖の霊を迎え入れる切子燈籠の明かりの下で輪になり、笛や太鼓、三味線などのお囃子はなく、唄声と手拍子、下駄の音だけが鳴り響く独特な雰囲気に包まれています

屋形の上の保存会の人たちのお囃子に合わせ、道路上で踊る郡上おどりや白鳥おどりとは違い、神聖な拝殿で輪をつくり、誰もが音頭取りになって自由に唄って踊る拝殿おどりは、敷居が高そうに感じる方も多いかもしれません。しかし一歩足を踏み入れてみると、きれいに踊らなくてもいい、上手に歌えなくてもいい、地元の人も外の人も純粋に掛け合いを楽しみながら笑いに包まれる…そんな一夜限りの空間に恍惚とした表情を浮かべることとなるでしょう。


拝殿おどりとは

拝殿踊りのルーツは山岳信仰が栄えた頃までさかのぼります。

当時修行に勤しんでいた修験者たちは、芸能の伝播者でもあったため、白山麓一帯の国々をめぐりながら、多くの芸能を取り入れて磨きあげ、同時に多くの国々へと験力(げんりき)として芸能を伝えていました。

古来、「歌」は神々との交信の手段でもあったため、白山美濃禅定道の奥山に奉仕していた石徹白の社人たちは、お盆の時期に白山頂上にて、神のお告げを受けると、白山の中津宮居である長滝へと降ります。彼らはそのお告げを歌舞に変えて長滝の僧侶や社人たちの前で披露していたといいます。それを受けた長滝の人たちは、その意に共鳴してまた歌舞で答えます。すると石徹白の社人たちはその思いをもって山頂へ上り、奉上したといわれます。人々を介した神との交信が白山文化圏での盆踊りの源流といわれています。

この一連の流れのことを里人は「バショウ」や「場所踊り」と言い、お盆の時期に迎える祖霊との交流や、そこに集う村人たちと歌を交互に披露する歌盃(うたさかずき)としていました。やがて、村自慢の歌舞が交差する中、今日の拝殿おどりや、郡上おどりの原型となるものが形成されました。

また郡上の盆踊りは、下駄を踏み鳴らすことが特長ですが、これは場を浄めて悪霊を追い出し、地の神様、ご先祖様を呼び起こす意味を持ち、白山信仰との関わりを感じさせてくれます。

唄う順番が決まっていない拝殿踊り。

「ハァ〜〜」と歌い出すタイミングや声の大きさが重なると、声の伸びや大きさで競いあって音頭をとります。他の人が唄った歌へ上手に返すアドリブの歌詞を入れて愉しんだりと、その場限りのライブ感が味わえます。

初めて参加する方でも心配はいりません。まずは輪に入り、歌に合わせて気持ちよく身体を揺らし、隣の人の足のステップを真似てみましょう。次第に拝殿踊りの独特の空気感に入り込んでいくことでしょう。「他所の方、歌っておくれ」と、いつしか歌うチャンスがまわってくるかもしれません。

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